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東洋医学03.五臓


§I 緒論〜五臓六腑と臓象概説について


■ 臓腑とは
 臓腑とは内臓の総称です。これらはそれぞれのもつ生理的機能的特徴により、臓・腑・奇恒の腑の3つに分類することができます。臓は五臓のことであり、これには肝・心・脾・肺・腎があります。腑は六俯のことであり、これには胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦があります。また奇恒の腑には、脳・髄・骨・脈・胆・女子胞があります。

■ 臓腑の生理的特徴
 臓・腑・奇恒の腑のそれぞれの生理的特徴は以下の通りです。
@五臓に共通する生理的特徴……精気の化生と貯蔵です。
A六腑に共通する生理的特徴……水穀の受盛と伝化です。
B奇恒の腑……奇恒の腑の形態および生理機能は、六腑とは異なっています。奇恒の腑は水穀と直接に接触することはなく、密閉した組織器官であると考えられています。また精気を蔵するという臓の作用に類似した機能ももっています。こうした生理的特徴により、六腑とは区別されて奇恒の腑と称されています。
 病気の初期の段階では、病は腑にあることが多く、長期化すると臓に移行する場合が多いとされます。また臓の病には虚証のものが多く、腑の病には実証のものが多いという特徴があります。腑実証の場合には該当する腑を瀉し、臓虚の場合には該当する臓を補います。

■ 臓象学説の形成
 人体の生理・病理現象の観察を通じて、各臓俯の生理機能や病理変化、さらにその相互関係を解き明かす理論のことを臓象学説と呼びます。この場合の臓とは体内におさまっている内臓(=臓腑)のことで、象とは外に現れる生理現象と病理現象のことです。
 臓象学説の形成にあたってば、古代における古代の解剖知識、生理・病理現象の観察および医療実践の3大要素が大きな影響をおよぼしたとされています。
@古代の解剖知識
 例えば、『霊枢』経水篇には、屍体を解剖して臓腑の大小、脈の長短、血の清濁などを観察したという記載があります。解剖の経験が臓象学説にとって形態学上の基礎となったと考えられています。
A長期にわたる人体の生理・病理現象の観察
 例えば、皮膚が寒冷刺激を受けて感冒を患った場合には、鼻づまり、鼻水、咳嗽などの症状が現れます。このようなことから皮毛・鼻・肺のあいだに密接な関係があることが認識されるようになりました。こうした各器官の相互関連を長期にわたって観察、考察することにより、臓象学説につながる基礎知識が蓄えられていきました。
B医療実践
 経験に基づく知識を根拠に診断・治療などの医療実践を繰り返して、病理現象とそれに対する治療の効果がさらに経験として蓄積され、それが分析されてきました。こうして人体の生理機能が確立した概念とした認識されてきました。例えば、多くの眼疾患に対し、肝を病位として治療すると良い効果が得られ、これが繰り返し検証されて、「肝は目に開竅する」という考えがもたれるようになりました。また、補腎により、骨の癒合が促進されることが認識され、このことから腎の精気に骨格を生長させる作用があることが知られるようになり、「腎は骨を主る」という認識が生まれました。

■ 臓腑統一体観の基礎概念
 五臓を中心とする臓腑の統一体観が、臓象学説の主な特徴となっています。その統一体観の基礎をなすのは、以下の概念です。
@臓と腑は1つの統一体です。
A五臓と身体の所定の部位や諸竅とはたがいに連絡しあっており、1つの統一体を形成しています。
B臓は陰の性質を、腑は陽の性質をもっていますが、臓腑のあいだには表裏関係があります。肝と胆、心と小腸、脾と胃、肺と大腸、腎と膀胱および心包と三焦はそれぞれたがいに表裏関係となっています。
C五臓にはそれぞれ外候(外への現れ)があり、身体の所定の部位や諸竅(穴)にその影響があらわれます。

   例:
  心:その華は顔にあり、血脈を充たし、舌に開竅します。
  肺:その華は毛にあり、皮毛を充たし、鼻に開竅します。
  牌:その華は唇にあり、肌を充たし、口に開竅します。
  肝:その華は爪にあり、筋を充たし、目に開竅します。
  腎:その華は髪にあり、骨を充たし、耳と二陰に開竅します。

D意識・思惟・精神・情緒は脳の機能ですが、これについては『内経』などの文献にもその記載があります。ただし、臓象学説では、五臓の生理機能が正常であってこそ、脳の機能も正常に機能すると考えています。さらに、意識・思惟・精神・情緒は、五臓それぞれの生理活動と密接な関係があるとされています。例えば、肝は魂に、心は神に、脾は意に、肺は魄に、腎は志にそれぞれ対応しています。
 五臓の機能に異常が生じると、脳の意識・思惟・精神・情緒方面における機能に影響をあたえます。また逆に精神や意識面での変化が、五臓の生理機能に影響することもあるとされます。
E五臓それぞれの生理機能のあいだには、一定の平衡、協調関係があり、そうした協調関係は体内の内部環境を安定させるために、重要な役割をはたしています。この関係は五行説にもとづいて整理されています。また五臓と身体の各部位、諸竅との連絡、あるいは五臓と精神・情緒活動との関係を通じて、体内と体外とは連絡しあっており、これにより体内環境と体外環境とは、バランス・協調を維持しているとされています。

■ 二千年以上の時を超えて
 臓象学説の形成にあたっては、確かに古代の解剖学的知識がその基礎となっていますが、この学説の発展過程には「体内の状態は、必ず体外に反映する」という考えにもとづく実践的な観察、研究の蓄積によるものです。したがって臓腑の概念は、人体解剖学の臓腑の範囲をはるかに超越しています。肝・心・脾・肺・腎などの臓腑の名称は、現代解剖学の臓器の名称と同じですが、生理・病理の内容は、必ずしも同じではありません。むしろ中医学における1つの臓腑の生理機能は、現代解剖生理学のいくつかの臓器の生理機能を含んでいると考えられます。また現代医学の認識する1つの臓器の生理機能は、臓象学説ではいくつかの臓腑の生理機能のなかに分散しているとも考えられます。しかし臓象学説中の臓腑を、強いて現代解剖学的概念に対応させる必要はないし、そうすればとんでもない誤解と不信を生じ、中医学から何も学べなくなるでしょう。中医学は長年の実践的観察・研究から得られた理論体系であり、二千年以上にわたって統一性・系統性・普遍性をもった概念を私たちに伝え続けていることを念頭に置くべきでしょう。



§U.五臓


A.肝

主な生理機能 疏泄を主る
蔵血を主る
五行との照応関係 五志:怒
五液:涙
五主:筋
五華:爪
表裏:胆
五竅:目

■ 肝の主な生理機能

@疏泄を主る
 疏とは疏通、泄とは発散・昇発のことです。肝の疏泄機能は肝が剛臓であって昇を主り、主動性をもっているという生理的特徴を反映しています。これには次の4つの内容があります。
[気機の調節]
 気機とは気の昇降出入の運動のことで、臓腑・経絡・器官などの活動はすべて気の昇降出入の運動に依拠しています。また気の昇降出入は肝の疏泄・条達をよりどころとしているので、肝は気の昇降出入に対し調節作用をもっているといえます。肝の疏泄機能が正常であれば気概はスムーズにゆき、気血は調和し、経絡は通利し、臓腑・器官も正常に活動します。
 肝の疏泄機能が異常になると、次のような病理的変化が現れます。
 1つは、気機の疏通(流れ)が悪くなると現れる気機鬱結という病理的変化です。この場合は胸脇、両乳あるいは少腹などの肝経の循行部位に脹痛・不快感が現れます。  2つめとしては肝の昇発が盛んになり過ぎて、気概が逆乱失調すると現れる肝気の上逆という病理的変化です。「気めぐれば血めぐる」という関係があり、気が昇りすぎると血も気とともに上逆し、吐血・喀血などの症状が現れます。とつぜん昏睡状態になることもあります。
 血の運行と津液の輸送・代謝もまた気機に依存しています。肝気が鬱結すると血行も障害を受けやすくなります。血行障害により血瘀を生じると、癥瘕、痹塊などを形成します。女性では生理不順・月経痛・閉経などが現れやすくなります。肝の条達機能の失調や肝気鬱滞は、津液の輸送にも影響をあたえ、痰飲などの病理産物を形成します。
[脾胃の運化機能の促進]
 脾は昇清を主り、胃は降濁を主っています。脾胃の昇降が正常であれば、食物を順調に吸収し輸送することができます。脾胃の昇降と肝の疏泄機能とは密接な関係があります。肝気の疏泄機能は、脾胃が正常な昇降運動を行うための重要な条件です。肝の疏泄機能が失調すると、脾の昇清機能だけでなく、胃の降濁機能にも影響がおよびます。前者を「肝気犯脾」、後者を「肝気犯胃」といい、これを総称して「木鬱克土」といいます。同病には嘔逆・ゲップ・院腹部の脹満・疼痛・下痢などの脾胃昇降機能の失調による症状が現れます。
[胆汁の分泌、排泄調節]
 胆は肝と連絡しており、胆汁は肝の余気が集って生成されます。そのため、肝の疏泄機能は直接胆汁の分泌と排泄に影響します。肝の疏泄が正常であれば、胆汁も正常に分泌・排泄され脾胃の運化機能を助けます。しかし肝気が鬱すると胆汁の分泌と排泄に影響をおよぼし、口が苦い・消化不良、ひどいときには黄疸などの症状が現れます。
[情志の調節]
 中医学では人の情志活動は心とともに肝の疏泄とも密接な関係があるとしています。肝の疏泄機能が正常であれば、気機は正常に活動し、気血は調和し気持ちも明るくなります。しかし肝の疏泄機能が失調すると、情志に変化が現れやすくなります。この変化は抑制と興奮の2つに分けられます。肝気が鬱結すると抑鬱状態になりやすく、わずかな刺激を受けただけでも、強い抑鬱状態に陥りやすくなります。また肝気が興奮しすぎると、いらいらしやすくなり、わずかな刺激でも怒りやすくなります。これらは肝の疏泄機能が情志にあたえる影響です。また、外界からの刺激を受けておこる情志、とくに「怒」は肝の疏泄機能に影響をおよぼしやすく、これにより肝気の昇泄過多という病理変化が生じることもあります。

A蔵血を主る
 「肝蔵血」という言葉は血液を貯蔵し、血量を調節する肝の生理機能を指しています。唐代の王冰は「肝は血を蔵す、心はこれをめぐらす。人動ずればすなわち血を諸経に運び、人静かなればすなわち血は肝に帰す。肝は血海を主るゆえんなり。」といっています。また肝の蔵血機能には人体諸組織の血量を調節する作用があります。肝が血液を貯蔵し血量を調節する作用をもつということは、人体内の各部分の生理活動が、肝と密接に結びついているということでもあります。肝に病があると蔵血機能は失調し、血虚や出血がおこるだけでなく、人体のさまざまな部位に栄養不良による病変を引き起こします。例えば肝血不足になると、筋を養えなくなり、筋脈の拘急、肢体のしび机屈伸不利などが現れます。肝の血液貯蔵と血量調節の作用は、婦女の月経とも関係しています。肝血が不足すると月経量が少なくなり、ひどい場合は閉経になります。また肝不蔵血のときには月経量が多くなり、ひどくなると崩漏がおこります。
 肝の血量を調節する作用は、肝の疏泄機能の血液循環に対するはたらきの1つです。したがって肝の血量調節の機能は、蔵血と疏泄機能のバランスが保たれて初めて正常に行われます。昇泄過多や、蔵血機能の減退は、各種の出血を引き起こし、また疏泄不及、肝気鬱結では血瘀を生じさせます。
 また肝は疲労に耐えることのできる臓であり、魂を蔵する機能をもっています。魂は神の変じたもので、神から派生してできたものです。肝の蔵血機能が正常であれば魂の舎る所があります。しかし肝血が不足すると、魂も舎る所がなくなり、驚きおびえる・よく夢をみる・臥寝不安・夢遊・寝言・幻覚などの症状がおこるようになります。

■ 肝と五行の照応関係

@怒は肝の志
 怒は一般的に生理活動に対して好ましくない刺激をあたえる感情で、気血を上逆させ、陽気を過度に昇泄させます。
 肝は疏泄を主っており、陽気の昇発は肝のはたらきによるものであることから、怒は肝の志とされています。激しく怒ると、肝の陽気の昇発が度をこすことになるので、「怒は肝を傷る」といういい方もされます。また肝の陰血が不足すると、肝の陽気の昇泄が過剰となり、わずかな刺激を受けても怒りを覚えやすくなります。
A涙は肝の液
 肝は目に開竅します。涙は目から出て、目を潤し保護するはたらきをもっています。正常ならば涙の分泌は目が潤う程度であり、外には溢れでません。ただし異物が目の中に侵入したときは涙が大量に分泌し、眼を清潔にし異物を排除します。病理状態では、涙の分泌異常がみられます。肝の陰血が不足すると、両目が乾くし、風火赤眼・肝経の湿熱などでは眼脂が増え、風にあたると涙が出るなどの症状が現れます。また極度の悲哀の状態になると、涙の分泌量が増えます。
B体は筋に合し、華は爪にある
 筋とは筋膜のことであり、骨に付着し関節に集まっています。これは関節、肌肉をつなぐ組織の一種です。肝が筋を主るとは、主として筋膜が肝血の滋養を受けていることを指しています。
 肝の血が充足していれば筋が滋養され、筋は栄養を得てはじめて機敏に力強く運動できるようになります。肝の血が少なくなると、筋膜は栄養を失い、筋力不健・運動不利になります。肝の陰血が不足して筋がその栄養を失うと、さらに手足の振顫・肢体のしびれ・屈伸不利、ひどい場合には瘛瘲などの症状が現れます。
 爪甲とは手足の爪のことです。爪は筋の延長線上にあるもので、爪は「筋の余」であるといわれています。したがって肝血の盛衰は爪にもまた影響をあたえます。
 肝血が充足していれば爪は強靭であり、紅潤でつやがあります。肝血が不足すると爪は軟く薄くなり、枯れて色が淡くひどいときには変形し、もろく割れやすくなります。
C目に開竅する
 目は「精明」ともいいます。肝の経脈は上って目系に連絡しています。視力は肝血の滋養に依存しています。このことから、肝は目に開竅するといわれています。また五臓六腑の精気はすべて、目に上注するため、目と五臓六腑は内在的に連係しています。後世の医家はこの理論にもとづいて、五輪学説にまで発展させ、眼科の弁証論治に確かな基礎を築きあげました。
 肝が目に開竅するということから、肝の機能が正常であるか否かはしばしば目に反映されます。肝の陰血が不足すると両目が乾き、物がはっきり見えなくなるか、夜盲になります。肝系に風熱があると目赤痒痛がおこります。また肝火が上炎すれば目赤生翳(翳とは角膜混蜀のこと)が、肝陽が上亢すれば眩暈が、肝風内動すれば斜視・上視などの症状がそれぞれ現れます。

B.心

主な生理機能 血脈を主る
神志を主る
五行との照応関係 五志:喜
五液:汗
五主:脈
五華:顔面
表裏:小腸
五竅:舌

■ 心の主な生理機能

@血脈を主る
 血脈は、血液が運行する通路です。「心は血脈を主る」とは、血液を推動して脈中に運行させ、身体各部を滋養するという心の機能を説明したものです。
 血脈を主るという心の機能は、心気の作用により推動されます。心気が旺盛であれば、血液はたえまなく脈管中を運行し、血中の栄養物質は臓腑・組織・器官および四肢百骸にうまく輸送されます。逆に、心気が不足して血液の推動か弱くなると、顔色がすぐれなかったり、脈が細弱となります。またこのために血行に障害が生じると、顔や唇が青紫(チアノーゼ状)になり、脈が細濇となることもあります。
 これらの考えにもとづくと、吐血・衄・胸痺・心悸などの心・血・脈系統の疾患に対しては、心を病位として治療すればよいことになります。
A神志を主る
 「心は神志を主る」といわれていますが、また「心は神を蔵す」とか、「心は神明を主る」ともいわれます。これは心に精神・意識・思惟活動を主宰する機能があることを説明したものです。
 「神」には次のような広義と狭義の二通りの意味があります。広義の「神」とは、人体の生命活動の外的な現れを指します。例えば、人体の形象および顔色・眼光・言語の応答・身体の動きの状態などは、すべてこの広義の「神」の範囲にはいります。また狭義の「神」とは、精神・意識・思惟活動を指しています。
 心の機能が正常であれば,精神は充実し、意識や思惟もしっかりしています。精神や意識・思惟活動の異常は、心の機能失調と考えられますが、この場合、不眠・多夢・気持ちが落ち着かないなどの状態になり、うわごとをいったり、狂躁の状態になることもあります。あるいは反応が鈍くなったり、健忘・精神萎靡となったり、昏睡・人事不省になることもあります。
 さらにいえば「心は神志を主る」という機能と、「心は血脈を主る」という機能を分けて考えることはできません。血液は神志活動を担う基礎物質ですし、心に血脈を主るという機能があるからこそ、心は神志を主ることができるのです。心の「血脈を主る」という機能に異常が生じると、神志面での変化かおこりやすい、ということになります。したがって臨床上、ある種の神志異常に対しては、血分の側面から治療することが多くあります。

■ 心と五行との照応関係

@喜は心の志
  「喜は心の志」とは、心の生理機能と精神情緒の「喜」との関係をいったものです。臓象学説では、怒・喜・思・憂・恐を五志と称しており、これらはそれぞれ特定の臓と関係が深いとされます。五志は、外界の事物事象から受ける印象よりおこる情緒の変化ですが、中医学では情緒の変化は五臓の生理機能により生じると考えられています。
 一般的にいうと、「喜」は人体に対して良性の刺激を与える情緒で、心の「血脈を主る」などの生理機能に対してプラスに作用します。しかしこれが過度になると、かえって心神を損傷することもあります。
A汗は心の液
 津液が陽気の作用を受けて玄府(汗孔)から流れ出たとき、その液体は汗となります。汗の排泄は、また衛気の腠理を開閉する機能とも関係があります。例えば、腠埋が開くと汗は排泄され、腠理が閉じていると無汗となります。汗は津液から化生したもので、血と津液とは源を同じくしています。発汗は心の機能を反映することがあるため「汗は心の液」といわれています。心気虚となると自汗がおこり、心陽虚となると汗がしたたるように出ます。したがって臨床上、汗の異常を治療するときには、多くの場合、心の機能を調節します。
B体は脈に合し、華は顔にある
 脈とは血脈のことです。心は「脈に合す」とは、全身の血脈の機能が心に帰属していることをいったものです。華とは色彩、光沢のことで、「華は顔にある」とは、心の生理機能の状態が、顔面部の色彩、光沢の変化から判ることを説明しています。頭顔面部には血脈が集中していて、心気が旺盛であれば、血脈が充足するため、顔面部の血色はよい状態に保たれます。逆に、心気が不足すると顔色は晄白となり、血虚の場合は顔色が青白く艶がなくり、血瘀の場合には、顔色は青紫色になります。
C舌に開竅する
 舌は心の状態を反映するため、「心は舌に開竅する」といわれています。また舌は「心の苗」であるともいわれています。舌には味覚の識別と言語を発するという二種の機能がありますが、これらの舌の機能は、心の「血脈を主る」機能と、「神志を主る」機能と関係があります。したがって心の生理機能に異常が生じると、味覚の変化や舌強(舌のこわばり、言語障害)などが現れやすくなります。

■ 心の病理変化と舌との関係

 一方、舌質の色彩、光沢からは気血の運行状況と、心の「血脈を主る」という生理機能の状況を知ることができます。この「心は舌に開竅する」という考えは、古代の医家が長期にわたる生理・病理現象の観察を通じて得た理論です。以下に心の病理変化と舌との関係をいくつか紹介します。
@心の陽気不足………………舌質淡白・胖・嫩
A心の陰血不足………………舌質紅絳・痩・瘪
B心火上炎……………………舌質紅あるいは瘡ができる
C心血瘀阻……………………舌質暗紫、あるいは瘀斑がある
D神志を主る機能の異常………舌巻・舌強・言語障害・失語など
 心と六腑との関係は、臓腑関係の章で述べます。

付録−−心包
 心包は、心包絡あるいは膻中ともいわれます。これは心臓の外面を包んでいる膜であり、心臓を保護する作用があります。心は心包絡のなかにあり、膻中は心の外にあるので、『内経』では、これを「心の宮城」と称しています。経絡学説によると、手厥陰経は心包絡に属し、手少陽三焦経と表裏の関係にあります。臓象学説では、心包絡は心の外囲にあたり、心臓を保護する作用があると考えており、したがって外邪が心に侵入する場合には、まず心包絡が病むことになります。温病学説では、外感熱病に現れる昏睡や譫語などの症状を、「熱人心包」や「蒙蔽心包」などによるものとしています。


C.脾

主な生理機能 運化を主る
昇清を主る
統血を主る
五行との照応関係 五志:思
五液:涎
五主:肌肉(四肢を主る)
五華:唇
表裏:胃
五竅:ロ

■ 脾の主な生理機能

@運化を主る
 運化とは水穀(飲食物)を精微と化し、全身に輸布する生理機能のことです。脾の運化機能は、水穀の運化と水液の運化の2つからなります。
[水穀の運化]
 水穀の運化とは、飲食物の消化・吸収作用のことです。飲食物の消化吸収は胃と小腸との共同作業によって行われます。しかし胃と小腸による消化吸収は、脾の運化機能に依存しており、それにより飲食物を水穀の精微に変化させることができます。また脾の輸布と散精の機能により、水穀の精微は全身に送られます。
 脾の運化機能が正常であれば、臓腑・経絡・四肢百骸などに必要な栄養がとどき、正常な生理活動を営むことができます。ところが脾の運化機能が失調し、脾失健運になると、便溏(大便が稀薄になること)、食欲不振となり、また倦怠感 消痩(やせやつれる)や気血生化不足などの病変がおこります。これらのことから「脾胃は後天の本、気血生化の源」といわれています。
[水液の運化]
 水液の運化とは、水液の吸収・輸布の作用を指しています。これは脾の運化作用の1つであり、水湿の運化ともいわれています。吸収された水穀の精微に含まれる余った水分はこの作用により肺と腎へ送られ、肺と腎の気化作用により汗・尿となり体外に排泄されます。すなわち、このはたらきが正常であれば、水液は体内に異常に停滞することはなく、湿・痰・飲などの病理産物も生じません。しかし脾の水液運化の機能が失調すると、水液が体内に停滞し、湿・痰・飲などの病理産物が生じ、また水腫となることもあります。これは脾虚生湿という証であり、このために脾は生痰の源ともいわれています。またこれは脾虚による水腫の発生機序でもあります。
A昇清を主る
 昇とは脾気が上昇する性質をもつことをいい、清とは水穀の精微などの栄養物資のことです。すなわち昇清とは水穀の精微、栄養物質を吸収し、心・肺・頭・顔面部へ上らせ、心肺で気血を化生し、栄養を全身に送ることをいいます。このことから「脾は昇をもって健とする」といういい方がされています。
 昇と降は、臓腑の気機の相対立する運動です。脾の昇清は胃の降濁と対をなしています。臓腑間の昇降相因は、内臓が安定した平衡状態にあるための大切な要件です。脾の昇清機能が正常であれば、水穀の精微などの栄養物質が正常に吸収・輸布されます。
 脾気の昇清が失調すると、水穀は正常に運化されず、気血生化の源が不足するので、神疲・脱力感・頭目眩暈・腹脹・泄瀉などの症状がおこりやすくなります。
 脾気(中気)が昇発せずに下陥すると、久泄・脱肛がおこり、ひどくなると内臓下垂がおこります。
B統血を主る
 統血とは血が経脈中を循行するように導き、血が脈外に溢れでるのを防ぐ脾の機能のことを指しています。
 脾の統血作用は、脾気の血に対する固摂作用によるものです。脾気か旺盛であれば、気の血に対する固摂作用も健全で、血が脈外へ溢れることはありません。これに対し、脾の統血機能が減退すると、気の固摂作用が衰えて出血がおこるようになります。血便・血尿・崩漏(不正性器出血)などの多くは脾の統血作用の失調のためにおこるので、これを脾不統血と称しています。

■ 脾と五行の照応関係

@思は脾の志
 思とは思考・思慮のことであり、精神・意識・思惟活動の1つです。
 「思は脾の志」とされています。正常に思考する場合には、生理活動に対し悪い影響をあたえないが、思慮が行き過ぎた場合、あるいは思念が現実化しないとしばしば生理活動に影響をおよばします。最も影響を受けやすいのが気の運動で、気滞と気結を引き起こしやすくなります。
 また脾の運化機能の失調は、思に悪影響をあたえ、ひいては生理活動にまで影響をおよぼします。例えば気結があるために、脾の昇清かうまく行えなくなると、思慮過度となり食欲不振・院腹の脹悶感・眩暈などの症状が現れやすくなります。
A涎は脾の液
 涎とは唾液中の清い液のことです。これには口腔粘膜を保護し、口腔を潤す作用があります。食をとると涎の分泌が増え、嚥下と消化を助けます。正常であれば涎液は口に上行しますが、口外には溢れません。しかし脾胃不和になると、涎液の分泌が急激に増え、涎が口から溢れでるようになります。このことから涎は脾の液といわれています。
B体は肌肉に合し四肢を主る
 脾胃は気血生化の源です。全身の肌肉は脾胃で運化された水穀の精微により滋養され豊満・壮健となります。すなわち体の肌肉が壮健であるか否かは、脾胃の運化機能と関係があり、それに障害があると肌肉が痩せ、軟弱で無力となり、萎縮することもあります。
 四肢はまた「四末」ともいわれています。四肢も脾胃の運化により得られた水穀の精微の栄養を必要とし、それによって正常な生理活動を維持しています。脾気が旺盛であれば、四肢には充分に栄養が供給され運動も正常に行えます。しかし脾の運化機能が失調すると、四肢の栄養が不足し、倦怠感無力感が生じ、四肢の萎縮を引き起こすこともあります。
C口に開竅、華は唇にある
 「脾は口に開藪する」とは、味覚と脾の密接な関係をいったものです。味覚は脾胃の運化機能と関係があります。また、脾の昇清と胃の降濁とも関係があります。脾胃の運化が正常であれば、味覚は正常で食欲は増進します。しかし脾が正常な運化かできなくなると、口淡で無味、口が甘い、口がねっとりする、口が苦い、などの口味の異常が現れ、これらは食欲を減退させます。
 口唇の色や光沢は、全身の気血の充実度と関係がある。脾は気血を生化する源で、口唇の色沢が赤く潤っているかどうかにより全身の状況がわかります。また口唇は脾胃の運化機能の状態も反映しています。


D.肺

主な生理機能 気を主り、呼吸を主る
宣発と粛降を主る
通調水道
百脈を朝め、治節を主る
五行との照応関係 五志:憂
五液: 涕
五主:皮
五華:毛
表裏:大腸
五竅:鼻

■ 肺の主な生理機能

@気を主り、呼吸を主る
 肺には「一身の気」を主る作用と、「呼吸の気」を主る作用があります。肺の「一身の気を主る」という作用は、第一に気の生成、とりわけ宗気の生成を指しています。宗気は肺から吸入される清気と、脾胃が運化する水穀の精微とが結合することによって生成されます。したがって肺の生理機能は、宗気の生成に直接影響しますし、全身の気の生成にもまた影響します。さらに肺の「一身の気を主る」作用は、全身の気機の調節をも行っています。すなわち、肺のリズミカルな「呼」と「吸」が、全身の気の昇降出入の重要な調節作用を行っているのです。
 次に「肺は呼吸の気を主っている」とされています。これは肺が体内外の気体交換を行う場所で、肺の呼吸を通して、自然界の清気を吸入し、体内の濁気を呼出していることを指しています。これにより気の生成が促進され、気の昇降出入が調節されて、人体の正常な新陳代謝が行われます。
A宣発と粛降を主る
 「宣発」とは、広く発散し、行きわたらせることです。また「粛降」には、清粛・清潔・下降の意味があり、肺気が下に通降し、呼吸道の清潔を保持する作用のことをいいます。
[宣発作用]
(@)肺の気化作用を通じて、体内の濁気を排出します。
(A)脾により転輸される津液と水穀の精微を全身に布散(輸送)し、皮毛に到達させます。
(B)衛気を宣発し、腠理の開閉により発汗を調節します。
 したがって肺気の宣発がうまくいかなくなると、呼気不利・胸悶・咳喘および鼻づまり・くしゃみ・無汗などの症状がおこります。
[粛降作用]
(@)自然界の清気を吸入します。
(A)肺は臓器のなかでは最も高い部位にあるため、華蓋の臓といわれています。肺には自らが吸入した清気と、脾から肺に転輸された津液・水穀の精微を下に輸送する作用があります。  (B)異物をとりのぞき、肺の清潔な状態を保持します。
 したがって肺の粛降がうまくいかなくなると、呼吸が急迫したり浅くなったりします。また咳痰・喀血などの症状がおこります。
[肺の宣発と粛降]
 宣発と粛降の機能は生理的には、相互に依存しあっており、また根圧に制御しあっています。病理的状況下でも、これらは相互に影響しあいます。例えば、宣発機能が正常にはたらかなければ、粛降機能もその影響を受けるし、粛降機能が正常にはたらかなければ、宣発機能もその影響をうけます。
 宣発と粛降が正常であれば、気道は通利し、正常な呼吸が行われます。しかしこの2つの機能が失調すると、「肺気失宣」や「肺失粛降」という病変がおこり、喘息や咳嗽などの症状を伴う肺気の失調の証が現れます。
B通調水道の作用
 通とは疏通のことで、調とは調節のことです。また水道とは、水液を運行・排泄する通路です。肺の宣発・粛降機能は,協調して体内における水液の輸送・排泄を疏通・調節しています。その作用には、主として次の2つがあります。
 第1に、脾が上に輸送してくる水液は、肺気の宣発機能により全身に輸送され、その一部は汗と なって体外に排泄されます。
 第2に、不必要な水液は肺の粛降機能により膀胱に輸送され腎と膀胱の気化作用により尿液となり体外に排泄されます。
 このように肺は米液代謝の調節に参与しているので、「肺は水の上源」・「肺は米のめぐりを主る」といわれています。
 肺気の宣発機能が失調して腠理が閉じると、無汗や浮腫などの症状が現れます。また肺気の粛降機能が失調すると、浮腫や小便不利などの症状が現れます。これらは肺の通調水道の作用が失調しておこる病理変化です。
C百脈を朝め、治節を主る
 「朝」には、集合という意味があります。全身の経脈は肺に集まります。そのため、肺は「百脈を朝める」といわれています。
 また全身の血と脈は、心が統括していますが、血の運行は気の推動機能に依存しています。すなわち、血は気の昇降運動により全身に運行しています。そして肺には「一身の気を主る」機能があり、また呼吸を主っています。全身の気機は、この肺の機能によって調節されます。したがって人体における血液の運行もまた、この肺気の輸送と調節に依存していることになります。
 「治節」には、管理・調節の意味があり、この肺の治節作用には、次の4つの内容があります。
(@)呼吸を調節……肺は呼吸を主っており、これにより規則正しい呼気と吸気が行われます。
(A)気の昇降出入を調節……肺の呼吸により、全身の気機は管理・調節されています。
(B)血液運行の推動・調節……肺は気の昇降出入運動を調節していますが、これにより心臓を助けて血液の運行を推動・調節しています。
(C)肺の宣発・粛降機能は、津液の輸布、運行と排泄を管理・調節しています。

■ 肺と五行の照応関係

@憂は肺の志
 五志はそれぞれ五臓と関係かおるが、「憂は肺の志」といわれている。また悲は憂と異なる情志(感情)ですが、人体の生理活動にあたえる影響は似ています。したがって憂と悲は、ともに肺志とされています。
 憂愁と悲傷は、ともに人体に悪い刺激をあたえる情緒で、これにより人体の気はしだいに消耗されます。肺は気を主っているので、憂と悲は肺を損傷しやすいという特徴があります。また肺が虚している場合には、憂や悲という情緒変化かおこりやすくなります。
A涕は肺の液
 涕には鼻竅を潤す作用があります。正常な場合、鼻涕は鼻竅を潤し、外には流れません。肺寒の場合には水様の鼻汁が流れ、肺熱の場合には粘くて黄色い鼻汁が流れます。また肺燥の場合には鼻が乾きます。
B体は皮に合し、華は毛にある
 皮毛は[一身の表]であり、衛気と津液により温養され潤されており、外邪の侵入を防ぐ作用をもっています。肺は気を主り、衛に属し、衛気を宣発し精を皮毛に輸送する生理機能をもっています。
 肺の生理機能が正常であれば、皮膚はしっかりしていて光沢をもっており、外邪の侵入に対しても抵抗力があります。しかし肺気が虚して衛気の宣発と精の輸送機能が弱くなると、衛表不固となり外邪の侵入をうけやすくなります。この場合には汗をかきやすくなり、感冒を患いやすくなったり、皮膚があれてカサカサになりやすくなります。
 また肺は皮毛に合しているので、皮毛が外邪の影響を受けると、腠理が閉じて衛気か鬱滞するだけでなく、さらに肺にも影響して肺気不宣となりやすくなります。一方、外邪が肺に侵入して肺気不宣となると、同様に腠理が閉じて衛気が鬱滞するという病理変化かおこりやすくなります。
C鼻に開竅する
 肺は鼻に開竅しています。鼻と喉は互いに通じており、肺に連絡しています。また鼻と喉は、呼吸の門戸といわれています。嗅覚や喉による発声は、肺気の作用によるものです。したがって肺気が調和していると、呼吸・嗅覚・発声はともに正常に行われます。
 肺は鼻に開竅しており喉に通じているため、外邪が肺に侵入する場合には、鼻や喉から侵入することが多いとされます。したがって肺の病変には、鼻づまり・鼻汁・くしゃみ・喉の痒み・嗄声・失音などの鼻や喉の証候が現れやすくなります。


E.腎

主な生理機能 蔵精、発育と生殖を主る
水を主る
納気を主る
五行との照応関係 五志:恐
五液:唾
五主:骨(髄を生ず)
五華:髪
表裏:膀胱
五竅:耳、二陰

■ 腎の主な生理機能

@蔵精を主り、生長・発育・生殖を主る
[蔵精を主る]
 精は精気ともいわれています。これは人体を構成し、人体の各種機能をささえる基本物質です。蔵精とは、この精気を封蔵(貯蔵)することで、腎の生理作用を指しています。
 精には先天のものと後天のものがあります。先天の精は父母から受けついだ生殖の精です。一方、後天の精は五臓六腑の精ともいわれており、脾胃で飲食物が化成されて作られ五臓六腑に供給されます。五臓六腑は、この精によりそれぞれの生理活動を営んでおり、その剰余物は腎に貯蔵されます。腎に蔵されている精を、腎中の精気といいます。先天の精は出生前にすでに存在しており、出生後は後天の精が先天の精を補充・滋養しています。両者は相互補完的に成りたつ関係にあります。
[生長・発育・生殖を主る]
 腎中の精気の盛衰は、生長、発育、生殖に深く関わっています。人は幼年期からしだいに腎中の精気が充実しはじめ、歯が生えかわったり、髪が伸びたりといった変化をおこします。青年期に入ると、それまで増えつづけた腎中の精気は、天癸(てんき)とよばれる物質を産出します。天癸とは、生殖機能の成熟を促す物質です。天癸の作用により、男子では精液を産出することができるようになり、女子では月経が来潮するようになり、性機能がしだいに成熟し、生殖能力がそなわります。老年期になると腎中の精気は衰え、性機能と生殖能力はこれに伴って減退、消失します。また身体もしだいに衰退します。
 腎の蔵精作用が失調すると、必然的に生長発育や生殖能力に影響が及びます。不妊症・脱毛・歯のぐらつき・小児の発育遅延・筋骨痿軟(無力感)などの症状は、すべて腎精不足によるものです。
[腎中の精気、腎陰、腎陽の関係]
 腎中の精気は、生命活動の本であり、腎陰と腎陽は各臓の陰陽の根本です。腎陰と腎陽は、ともに腎中の精気を物質的基礎としています。腎陰は元陰、真陰ともいわれる。これは人体における陰液の根源であり、あらゆる臓腑・組織を潤し、滋養する作用を有しています。また腎陽は元陽、真陽ともいわれ人体における陽気の根源であり、臓腑・組織を温煦し、生化する作用があります。腎における陰と陽は、ちょうど水と火が同時に存在するようなイメージがあることから、古来から腎は「水火の宅」と称されています。また腎陰を命門の水といい、腎陽を命門の火ということもあります。
A水を主る
 水を主る(主水)とは、体内での水液の貯留・分布・排泄を調節する作用を指しますが、主に腎の気化作用がこれを行っています。腎の気化が正常であれば「開合」も順調です。「開」とは代謝によって水液を体外に排泄することを指し、「合」とは生体に必要な水液を貯留することを指します。
 正常な状態下では、水液は胃に受納され脾によって転輪され肺から全身に行きわたったのち、三焦を通り、清なるものは臓腑を運行し、濁なるものは汗と尿に変化して体外に排泄されます。こうして体内の水液代謝のバランスは維持されています。
 この一連の代謝においては、腎の気化作用が終始はたらいています。したがって、腎の気化が失調すれば開合もまた不利となり、水液代謝障害が引き起こされ水腫・小便不利などの症状が現れます。
B納気を主る
 呼吸は肺が主っていますが、吸気は腎に下らなければなりません。吸気を腎に納めるという腎気のはたらきのことを「摂納」といいます。この作用があるために、「肺は呼気を生り、腎は納気を主る」といわれています。
 賢が納気を主ることは、呼吸にとって重要な意義があります。腎気が充実しており、摂納が正常に行われてこそ、肺への空気の出入りが円滑となり、順調な呼吸が可能になるからです。腎虚になって腎不納気となると、吸入した気は腎に摂納しないので、少し動いただけで息切れがしたり、また呼吸困難などの症状も現れます。

■ 腎と五行の照応関係

@恐は腎の志
 恐とは、物事に対しておそれおののく精神状態を指します。恐と驚は似ていますが、驚は意識せず突然受けるショックで、恐は対象を明確にとらえた精神状態、いわゆる、びくびく・おどおどした状態です。驚も恐も生理活動に対する影響という点からいえば、ともに不良な感情で、ともに腎を損傷することがあります。
 恐は腎の志ですが、心が主っている神明とも密接な関係があります。心は神を蔵しており、神が傷れると心が怯えて恐となります。恐により腎を損傷し、腎気不固となり遺尿がおこります。
A唾は腎の液
 唾は口中の津液で、唾液のなかで比較的ねっとりしたものを指します。唾は腎気の変化したもので、これをのみこむと腎中の精気を滋養することができます。唾が多すぎたり、長時間タラタラ流れ出てしまうようであれば、腎の精気が消耗されやすくなります。ここから古代の導引家は、舌下や上顎から出る唾液を口いっぱいに満たした後、これをのみこんで腎精を養ったのです。
B体は骨に合し、骨を主り髄を生じ、華は髪にある
 腎は「蔵精」を主っているが、精には髄を生じる作用があります。髄は骨のなかにあり、骨は髄によって滋養されています。腎精が充足している状態とは、骨髄を化生するのに十分な源があるということです。髄によって十分に滋養されると、骨格は頑健になります。
 腎精が虚してしまうと、骨髄の化源が不足し、骨に栄養を供給することができないため、骨格はもろくなり、ひどい場合は発育不良がおこります。小児の泉門閉鎖遅延・骨軟無力は、しばしば先天の精の不足が原因でおこります。
 また腎精が不足すると、骨髄は空虚となり、腰膝酸軟(だるくて痛む、ぐらつく)、さらには足が痿えて歩行できなくなるといった症状が現れます。  腎は髄を生じ、骨を主っているが、「歯は骨余」といわれるように、歯牙もまた腎精によって滋養されています。腎精が充足していれば歯はしっかりしていますが、腎精が不足すると歯はぐらつき、最終的には脱けてしまいます。
 髄は骨髄と脊髄とに分けられます。脊髄は上部で脳につながっており、脳は髄が集まってできていることから別名「髄海」ともいいます。
 精と血は、互いに養いあう関係にあるので、精が多ければ血も旺盛になります。毛髪に艶があるのは血の働きが旺盛な証拠で、ここから髪は「血余」であるといわれています。血によって髪は栄養を与えられると同時に、その生成のもとは腎の働きにあるので、腎の精気の充足度が、髪の成長あるいは脱落、そして艶のあるなしに直接関わっています。青年期と壮年期は腎精が充実しているので毛髪には艶があります。しかし老人になると腎気が虚してしまうので、毛髪は白くなり、脱けやすくなります。
C耳および前後二陰に開窯する
 耳の聴覚機能は腎の精気と関係があります。腎の精気が充足していると、聴覚は鋭敏になります。反対に腎精が不足すると、耳鳴・耳聾(難聴)などの症状が現れます。老人のはとんどに聴力の減退がおこるのは、この腎精の衰えが原因です。
 二陰とは前陰(外生殖器)と後陰(肛門)の2つを指します。前陰には排尿と生殖の作用があります。尿液の排泄は膀胱によって行われていますが、尿排泄に際しては腎の気化作用も重要なはたらきをしています。頻尿・遺尿あるいは尿少・尿閉といった症状は、腎陽の温煦作用が失調したためにおこることが多いとされます。生殖が腎の作用であることは前述したとおりです。また大便の排泄も、やはり腎の気化作用によって調節されています。そのため、臨床上も腎陰不足が原因でおこる大便秘結や、腎陽虚衰による大便不通、腎気不固によっておこる久泄(慢性下痢)、滑脱がしばしばみうけられます。





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